─冬の中を走り抜けるのは寒かった。
鼻先がツンと冷えて、目の前のヒロイチの背中にこすりつけたくなる。
ヒロイチの体の向こうに見え隠れする真新しい自転車には、いつの間に。わたしがあげたばかりのライトがもう取り付けられている。
もともと付いているライトもあるから、ふたつ。
これから学校の帰り道、ヒロイチとあたしを乗せた自転車が通るその道は、きっとまぶしい。
防波堤の前で、自転車が止まる。
ストン、ストン、と降ろされる四本の足。
自然につながった手がうれしくて、少しだけ見上げたその視界に入った、ゆるんだヒロイチの口元がうれしくて、あたしの顔はほころぶ。
防波堤の上まで登ると、いっそうに風が強くなった。
四方八方に舞う髪を押さえつけて、ヒロイチはいいなぁと思う。
その短い髪は、ほんの少し揺さぶられるだけでその視界を塞ぎはしない。
「…おせち、食べた?」
「食べた。けど雑煮のがいいな、おれ」
二人とも海に向かって、会話をする。
繋がった手、脈打つその振動は、いつもより速い。
「なんで?」
「そんな好きじゃねーんだよ、おせち。なんかジジっぽいだろ」
「ふふ、ジジっぽいってなによ」
瞳を緩めて笑ったら、ヒロイチの手にぎゅっと力がこもった。
「…ごめん」
目を見開く。ヒロイチから、謝ってくれたのは初めてだった。
「ううん、わたしこそ…ごめんね」
じんとした気持ちが込み上げてくる。
もどかしそうに、口を結ぶヒロイチの顔。
わたしに話す時間を与えてくれていると、伝わって。