通りすがりのペットショップ。「この犬、ヒロイチに似てる」と、笑うアカリ。
藍色の傘。大きすぎるというそれに二人で入ると、「ヒロイチに守られてるみたいだ」なんてはにかむアカリ。
眼鏡屋でギャグみたいな眼鏡を俺にかけさせて、大笑いするアカリ。
空。手。電話。場所じゃない単語からだって、思い起こされるのはすべてアカリだった。
アカリと一緒にいた思い出を回っていたら、どれくらい時間があってもきっと足りない。
…アカリが亡くなって、俺が学校を数日休んでいる間。
友人からの、「大丈夫か」という内容のメールで、携帯は一気に埋められた。
その代わり、毎日届いていたアカリからのメールの最終着信時刻は、刻々と遠のいた。
心配するメールも、もうすでにぽつりぽつりと、途切れ始めている。
過去になるのはあまりにも早すぎた。
俺だけ残して、世界はアカリを過去にしていく。
冷たい雨がスニーカーに染み込んで、つま先がじんじんと痛む。
もうすっかり夜になっていた。
寒空の下を歩いて帰る間に、雨が雪に変わった。
大粒の雪が降ってきて、それも横降りで。
斑点模様になった学ランの中で身を縮こめて、手をこすって。
家に帰り着いて、
雪を払って、
学ランを脱いで、
部屋は暗くて、
寒くて、
でも外よりはましで、それで、
俺は。