現実感がない。轢かれた現場を見たわけじゃない。
苦しそうなアカリの顔を、見たわけでもないんだ。
そんなもん見たら一生トラウマだな、なんて心のどこかで冷静に思う。
…アカリはまだどこかで生きている気がするんだ、なんて。
そんなありふれた言葉を心の中で並べ立てて、冷静な部分で少し笑った。
眠ろうとすればするほど目が冴えて、頭痛すら始まる。
動いている方がまだマシだと思った。
俺は重たい体を起こすと、まだ雨の匂いがする制服をまとって外へ出た。
頭上で開かれた傘。
藍色の。「ヒロイチの傘は大きすぎるから、わたしの傘が子供サイズみたいだ」と、アカリはよく笑った。
…ふと。
アカリを、辿ってみようと思った。
捜してみようと思った。俺たちがよく行く場所。よく通った道。
足は自然と、歩みを進めていた。
俺の足音を、雨音が塗り潰す。
アカリとの場所は、ぱっと思いつく限りでもたくさんあった。