十字三丁目のドーナツカフェの天井――空にみたてた天蓋からは、作り物の月やら猫やら気球船がぶら下げられている。僕は玩具の猫の黄色い眼を睨み付けながら、盛大な溜息をついた。
 まるで、世界中の不幸がここに吐き出されたみたい。

「まるで、この世が終わっちゃうみたいな溜息ね」

 見上げると、赤い髪の背の高いウェイトレスが僕を見詰めて笑っていた。

「えっと、ゆりあさん?」

「残念。ゆりあはあっち」そう言って、彼女は楽しそうな顔をしながら、親指で後ろの方を指差した。

「あたしはまりあ」


 違いがわからない。
 もう何度目の間違いだろう。このカフェにウェイトレスは五人いるのだが、五人全員が同じ容姿なのだった。店主は顔を覚えるのが苦手らしく、同じ顔の五つ子のウェイトレスに大満足のようだ。

「どっち行ったらいいんだろう」
 僕はまた溜息をついた。
「場所がわからないなら、交番いきなさいよ。店出て右側だから」

「違うんです。僕の正しい道はどこなんだろう、って。……明日進路相談なんです。僕はどこに行ったらいいでしょうか」

「なるほどね、でも、それはきいちゃダメよ。少年が正しいって思うことが正しいのよ」

「どういう意味、ですか?」

 僕は眉をひそめた。

「確かに犯罪に手を染めちゃう人は正しいとは言えないわよ?でもね、そうじゃなかったら、正しい正しくない生き方なんてないの。自分が良いか悪いかじゃないかしら」

「そういうものなのかな」