木曜日の夜だった。

彼女は一人きりだった。

彼女はライターを忘れた時みたいに携帯電話に没頭していた。


何度か彼女に視線を投げてみたが、携帯に没頭している彼女は自分に気付くことは無かった。


携帯で忙しそうだから…そんな言い訳も頭に思い浮かんだ。

しかしここしか無いと思った。

最大限の勇気を振り絞ってみた。


「ライターの調子はどうですか?」


彼女の斜め後ろに立ちそう言葉を出した。


肩までの栗色の髪をフワリとさせながら、こちらを振り向き「ごめん、少し待ってて」そう言ってまた、携帯に視線を落とし、ボタンを両手の親指を器用に使いながら打ち始めた。


暫く立っていたが、彼女の携帯は直ぐに終りそうになく、いたたまれない気持ちになり、その場からそっと離れかけた。


「ごめんね。やっとコメント打ち終ったから、で何だっけ?」

離れかけた自分に気付き、携帯を折り曲げて彼女は自分に視線を合わせた。


「いやっ、ライターどうかなって思って…」


「ハハハッ、あの時のライター?今でも全然調子良いですよ!ホラッ」