『……ラルス』

「ラルス?」

『そうよ。名もない私にあの人がそうつけてくれたの』

†‐‐‐‐‐‐‐‐†

あの頃の私はロイをすぐに信用できた。

当時私は幼かったか ら…もしかしたらこの人間はいい人かもしれないと…



それからロイに、すぐ恋に落ちた。


海の生き物達はみんなラルスの選んだ人ならば…

と嫌いな人間でも応援してくれた。


でも、人間側は違った。


誰も私達がうまくいく事を願っている人なんか誰一人として、いなかったのだ。


それでもロイは毎日私に会いに来てくれて、話をしてくれて、私は“明日”が好きになった。


明日”なんて前は大嫌いだった。明日になったって人魚はたった一人だから…


でも、海の生き物達が居るから寂しくなくなった。


ロイ…貴方のおかげよ。

最後、貴方はこう言ったよね?


「ラルス、愛してる」

『私も…愛してる』


それが私達が交わした最後の言葉だった。


陸の人間が人魚の存在を恐れ始めた。


「人魚は…ラルスは危険なんかじゃない!」

『いや…危険だ。人魚はあいつだけだ。殺すなら今だろう』

「止めろっ!!」



そしてロイは反逆者として、陸の人間に殺された――――――――


『おかしいでしょ?もとはと言えば戦争だって人間が人魚をさらったからなのにね』


淡々と話すのを黙って聞いているロイ。


「………。」

『ロイは殺された。私のせいで…夢にね、ロイが出てくるの。もっと生きたかったって。』

「………。」

『私が、私が代わりに殺されれば良かったのになぁ』

ラルスの頬に一筋の涙が伝った。

「違う!」

――――――――ビクッ



ロイが大きな声を出した。


「ロイは…兄ちゃんはラルスのことを愛していた!」


にい…ちゃん……?


『……どうゆう…こと?』

「俺の本当の名前は、マオだよ。」


マオ…ロイの弟……?


「兄ちゃんは村の人たちにいくら否定されたって君を庇っていた…。ラルスが代わりに死んだら…?そんなの、兄ちゃんが悲しむに決まってるだろ!」



★--‐‐‐‐‐‐‐‐★

3年前――――

当時俺は12才だった。
俺にはロイ兄ちゃんがいて母親が居て3人ぐらしだった。

父親は居なかったけどそれなりに幸せだった。


兄ちゃんは人魚の洞窟によく行くようになった。


最初は「どこに行くの?」と聞いても…


「ちょっとフラフラしてくる。」

しか言わなかった。
でも俺は知っている兄ちゃんがいつも嬉しそうだったことを…



俺は気になって後を付いていったことがある。

そこには人魚が居たんだ。



「に、人魚?!」

「マオっ!」



そう、兄ちゃんと人魚が親しそうに話していたのだ。


人魚なんておとぎ話で、伝説の洞窟と言うのも名前だけだと思っていた。


だけど本当に、人魚は、存在したのだ。


「マオ、どうしてここに居るんだ!」

「兄ちゃんがいつもどこか行くから、どこかなって…」

「駄目だろ?!勝手についてきちゃ。」

「ご、ごめんなさい…。」



側で見ていた人魚はフフって笑ってこう言った。



『あんまり苛めちゃ可哀想よ?』

第一印象は優しそうだった。
実際イメージ通り優しかった。

それに優しいだけではなくしっかりとしていて、何より美しかった。

それから俺もちょこちょこ遊ぶようになり名前もラルス、と呼び捨てになった。


ただ村の様子が最近おかしい…
兄ちゃんも最近笑っている顔が減った。



ある日こんな話を聞いてしまった――――



「人魚は…ラルスは危険なんかじゃない!」

「いや…危険だ。人魚はあいつだけだ。殺すなら今だろう。」


―――――――何を言っているんだ?


兄ちゃんがラルスに会いに行き俺は家の手伝いがあって、後から洞窟に向かった。


だがすでに手遅れだったのだ…。

洞窟の中で響く声が聞こえる…

最初は、お兄ちゃんとラルスかなと思ったけど違った。



「邪魔だ!人魚は不吉だ!!今殺さなきゃ昔と同じ過ちをしかねない!!」

「そんなことラルスだけじゃ無理だ!人魚はこの世でラルス一人だけなんだぞ!!」


そんな時海の中からヒョコッとラルスが顔を出した。


「…っ!人魚だ!!」

「ラルスっ!逃げろ!!」


ラルスは話が読めずとにかく海へ逃げなければと思い背をむけた時…




「邪魔だ、どけ!!」


――――――――ドスっ!!!


『ロイっ!!!!』

兄ちゃんはラルスを見て微笑んだ。




「ラルス、愛してる。」


「私も…愛してる!』


ラルスはハラハラと涙の雨をつくり兄ちゃんはラルスに口づけをした。




そして海へとラルスを突き飛ばした――――――――――