あたしは、ちゃーんと。

ちゃーーんと気配を消して、群れを眺めていただけなのに。

「なぁ…そこの女の子、名前は??」

イケメンの周りの女子が一気にあたしを見る。

は??あたしに言ってんの??

「あたし…ですか??」

おそるおそる聞いてみる。

「そう。名前は??」

「教えません」

「ふーん・・・俺そーゆー子、タイプだよ?」

「へえ、そうですか」

誰にでもウケると思ってるその余裕そうな表情がすごく嫌。

「・・・俺、気に入ったかも」

・・・は??

気に入った・・・??

「あの…」

状況が読めないあたし。

そんな棒立ちのあたしに、

前の椎名という男はズンズン近づいてくる。

あたしの目の前に立ち、

無表情であたしを見下ろす。

背…高い。

ふんわりと香る、アクアの匂い。

思わず見とれてしまうような顔立ち。

だけど、表情には出さずに、

じっと椎名とかいう男の目を見る。

何秒か、沈黙が続いた後、

急に、顔が近付く。

背中を反らして顔との距離を一定に保とうとしても、

柱にもたれかかっているため、

どうすることも出来ない。

うん、逃げよう。

横から、逃げようとしたあたしの手をつかみ、

椎名はそのままグイッと引いた。

無条件にまた向き合う状態になった瞬間。

―――――――キス??

掴まれた手を未だ強く握っているせいで、

片方の手で肩を押しても、

この状況のせいで力が入らない。

あたしは椎名の唇を噛んだ。

「…ってぇ…」