「莉子」


「ん、ん?」


「ちょっと行ってくる…」


「行ってくる…ってドコに!?トイレ!?トイレなら一緒に行くけどーっ」


足を進める私に叫ぶ莉子。


それには足を止めない。


だが。


―キーンコーン
カーンコーン


昼休みの終了のチャイムが鳴り響く。


「はあ―…もう嫌…」


なんで、キス恐怖症がバレたんだろう。


原因は何?


偽キスがバレたこと?


コンテストの伝統がキスだったこと?


ミス聖南になったこと?


神谷直樹がキスを求めてきたこと?


ううん。


そう。


すべての発端は、この私の『キス恐怖症』。


キスなんかできなくたって、平凡に過ごせる。


理解してくれる人がいるって思ってた。


キス恐怖症でもいいって思ってた。


でも。


―こんなにキス恐怖症を恨んだのは、今日が初めてだった。