「行くぞ」


そう一言だけいうと、掴んだ私の手を握り、私が進んでいた方向へと進む。


まただ。


また引っ張られる。


後ろから見る直樹の背中は妙に大きくて。


逞しく見えたりなんかする。


握られた手も大きくて。


離したくない。


でも言えない。


……でも気付いてほしい。


私はその直樹の手をぎゅっと握り返した。


お互い無言のまま歩く。


その手の温もりで通じ合っているかのように―……。












しばらく歩いて、私たちは近くのベンチに腰掛けた。


私と直樹は、微妙な距離。


余計にぎこちない。


これは何か話さないと間がもたない。


「ね、ねえ!何か飲み物買ってこようか?」


と、問い掛けたものの。


返事がこない。


もうこれは強行突破で。


「私買ってくるから、何がいい?」


私が立ち上がった瞬間、直樹に手を捕まれた。


「俺がいってくる。なんでもいい?」


「え?あ、うん」


私の返事を聞くと、手を離して直樹は人混みの中へと消えていった。


私はまた静かに腰を下ろす。


「はあ―…」


ため息しかでない。


こんな空気にはなりたくなかった―…。


直樹が帰ってきたとき、この微妙な距離縮まりますように。


そう願いながら、直樹の帰りを待った。