キスをしたことよりも。


されたことよりも。


係員さんに見られた恥ずかしさのほうが大きくて。


私は無言で直樹を押しのけて、顔は俯き加減でゴンドラから走り降りた。


その途中に、星蘭!、と呼ばれたことは聞いていないことにしよう。


最高潮に恥ずかしく熱い。


早足で歩きながら両手で頬を冷めろ、冷めろと仰ぐ。


そのとき。


私の腕が掴まれた。


私が振り返ると。


「おい!勝手に行くなよ!はぐれるだろ」


と、怒ってるというよりは心配してくれている直樹がいた。


私は結構な距離を歩いてきたみたい。


観覧車の入り口がかなり遠くに見える。


「ごめん…」


人混みの中、後ろを追いかけてくれていた。


――ああ、安心感だ。


私がどこにいっても。


どんな状況でも。


私を見つけて腕を掴んで引き戻してくれる。


信じてる。


信じてるからこそ安心できる。




私がキスができたのって―…?