でも。


好きな人って誰なの?、なんて聞き返す勇気なんてこれっぽっちも持っておらず。


それに、私は直樹が好きだと告白する勇気もなかった。


ただ痛みに耐え、話を聞くしかない。


いわゆる。


"生殺し"ってやつ?


私はひたすら無言。


言う勇気はないものの、何か余計なことを言ってしまう自信はある。


だから、無言。


幸いにも、直樹は一人で話を続けてくれるみたいだ。


「兄貴と春樹もさ、あんな奴らだけど、一応兄弟……家族だしな」


信頼してないこともない、と少しだけ笑う。


「俺、あんまり本気で手に入れたいって思ったことなくてさ」


私はその言葉に少しだけ頭を上げた。


「高校入って、ある人に一目惚れでさ。やっと最近近付けて、もっと俺のものにしたいってそんな気持ちが強くなってった」