「帰りました?」
問い掛けに俺は頷く。
良かったと綻ぶ那智は、今日は担任と会いたくなかったんだと俺に吐露した。
気分的に乗らなかったみたいだ。
「他人と喋るのは…とても勇気が要りますし、心構えも…、できてっ、うわっつ!」
「勉強は終わりだ那智。これからは遊びタイム」
辛気臭い空気になるのが嫌で、那智の曇り顔を見るのが嫌だった俺は、那智の体を肩に担いで居間に戻った。
「下ろしてください!」
バタバタと足を動かす那智に一笑して、俺は狭い居間の向こう、寝室代わりに使っている六畳半の部屋に足を運んだ。
重ねている敷布団の上に那智を落とす。
素っ頓狂な声を上げる那智の脇に手を添えて、俺はニンマリ笑った。
「そ、それだけは!」
那智の引き攣った顔を尻目に、俺は容赦なく弟の体を擽った。
途端に笑い声を上げる那智は、ヒィヒィ言いながら敷布団から滑り落ちる。敷布団は軽い雪崩を起こした。
それでも擽りをやめない俺に、那智は畳みの上で這いながらやめてくれと何度も懇願。
最後に那智の上に乗っかってやれば、
「ギブギブ!」
畳みを叩いて重いと悲鳴を上げる弟がそこにはいた。
「に、兄さまっ! 退いて下さいっ、お、おもっ!」
「んー? じゃあ、擽り再開か?」
「それだけはご勘弁を!」
「じゃあ、このままプレス」
「ぐぇっ!」
潰れた蛙のような声を出す那智は、退いてくれと悲鳴を重ねた。
「兄さま、おれで遊んでるでしょ!」
「だからお遊びタイムだっつっただろ?」
「ひ、酷いです! おれで遊んでるなんて!」
「兄さまの特権だ。弟は大人しく遊ばれてろ」