「すみません」


再度謝罪する俺に、大道先生は気にしないで欲しいと目尻を下げた。

後で電話させてもらうと大道先生は綻んだ。


「俺はこれからバイトですけど那智に言っておきます」


俺は愛想笑いを貫く。

大道先生は俺等兄弟が二人暮らしだっつーのを認識してる。

両親と事情で離れて暮らしてるってのも、どうやら分かってるみてぇ。


まあ…、俺も那智と同じ中学校に通ってたわけだし…。

俺がどういう扱いを受けていたのか、俺の中学時代を知る教師達がまだその学校にいたとすれば、薄々と事情も察するだろう。

深く追究はしてこなかった。


大道先生は物分りもよくて賢いから楽だ。

去年の那智の担任なんて、まるで人の家庭を詮索するように根掘り葉掘り聞いてくるもんだから参った。

少しは空気を読んで欲しいんだが、ちっともそいつは俺達の事情を察しようとしねぇ。

まんま馬鹿だった。

若い教師だったからってのもあるんだろうが、それにしても馬鹿みたいに熱血教師だった。


保健室登校になっている那智を教室に戻してやる。

自分はできる教師なんだって陶酔してたみてぇ。

やたらめったら毎日訪問してくる教師だった。


その分、大道先生は生徒と教師の境を分かってるみてぇで、毎日のように訪問するってことはねぇ。

那智が学校を休んで数日様子見、んでもって訪問、それを繰り返してる。


うざってぇって思うけど、去年に比べたら随分マシだった。
 

大道先生は一週間の内、一回でも午前中だけでも顔を出してくれたら嬉しいから…、


と俺に伝言を託して帰っていた。


背が見えなくなるまで見送った俺は、もう大丈夫な事を十二分に確認してから扉を閉めて風呂場にいる那智に声を掛ける。