うん、俺は一つ頷いて那智に風呂場に隠れるよう動作で指示。

このままだと、あそこに何時間でも待ってそうな雰囲気だったからな。

追い帰す必要がある。

コクコクと頷く那智は急いでテーブルの上の勉強道具を片付けると、忍び足で風呂場に逃げ込んだ。


それを確認した後、俺は内鍵を開けて扉を開ける。


他人に向ける愛想笑いを貼り付けて、


「ああ、大道先生ですか」


社交的に話し掛けた。

向こうも愛想笑いを浮かべて会釈してくる。

 
「下川のお兄さん、こんにちは。大道です。
下川…、那智くんはいらっしゃいますか?」

「いえ、留守なんです。図書館に行ってるようで」

「そう…ですか。留守なんですね、那智くん」
 

「那智を見に来て下さったんですか」


わざわざすみません、俺はあくまで社交的に大道先生に軽く頭を下げた。


「お顔を見ようと思いまして」


でも留守なら仕方が無いですよね、大道先生は頬を掻いて微苦笑を零した。


「ここ数日、学校に来ないので…、井坂(いさか)先生も気にしてらっしゃるんですよ」


井坂先生は那智が学校に来れなくなった原因を作った体育教師だ。

そいつが直接的に悪いわけじゃないが、井坂先生が那智が着替えられる理由も聞かず急かしたせいで、那智は教室を拒むようになった。

上辺では許しを見せてるけど、


実際、俺はそいつを許してねぇ。


那智を傷付けた野郎だからな。


まあ、いざこざを起こしたら面倒だから上辺では許したけど、俺はそいつを許しちゃねぇ。

那智を少しでも傷付けた。


それだけで敵視する理由が成立する。


そうだろ?

大事な弟を傷付けたんだ。
敵視して当然だ。