家に帰った俺等は買った物を取り出して、テーブルに置いて再度眺めたり、それについて語ってたり、談笑したり。
 
少し時間が経つと那智が勉強を教えて欲しいっつーから、俺は那智の勉強を見てった。


数学と理科は大得意だけど、

国語と英語は苦手意識があるのか、


あいつが持って来る教科はいつも国語と英語だった。

那智は典型的な理系のようだ。
 

俺も理系なんだが、文系でもいける口。

ましてや中学レベルなら教えることも容易だ。


古典を開いて顔を顰める那智に、俺は懇切丁寧に文法やら単語の意味やらを教えてやる。
 


こういった時間も大好きだった。


 
那智に勉強を教えてやる時間は、大学の講義よりも価値あるものだって思える。

テーブルに肘付いて、ノートと睨めっこしている那智の顔を見つめる。

眉間に皺を寄せてシャーペンの頭を銜えている那智の横顔は、いつまでもいつまでも眺めていられる。

厭きることがない。

眺めていて安心する。


「係り結びの法則、もっかい説明して下さい」


広げた教科書を俺に差し出してくる那智の声で我に返る俺は、誤魔化すようにページに目を落とした。
 
穏やかな時間が小さな密室に充満する。



―――コンコン。
 

安穏の空気を裂いたのはノック音だった。

ドアベルとノックが交互に聞こえてくる。

音に体を強張らせたのは那智だった。

背筋を伸ばして、おずおず玄関口に目を向ける。


「担任かも」


昨日も一昨日も今日も休んじゃったから…、様子見に来たんだ。那智は眉根をギュッと寄せる。


俺は腰を上げた。


「あの…」


服の裾を掴んでくる那智の頭に手を置いて、訪問者を確認するだけだってと微笑を向けた。

那智の嫌がるようなことはしない、その言葉に弟は裾を放してくれる。
 

俺は気配を殺して、目と鼻の先の距離にある玄関に足を運ぶ。

ドアスコープでそっと外界を覗き込む。そこには確かに那智の担任、大道(おおみち)先生がいた。

スーツ姿のそいつは男の教師でそれなりに年は食ってる。

家主の俺達を今か今かと待ち構えていた。