「そう思うのは俺の我が儘かもしれねぇけどな」


そっと腫れた目尻を親指でなぞり、俺は身を丸くして眠っている那智に頬を寄せた。

本能的に那智は俺に擦り寄ってくる。意識は無いだろうに。


那智の右の手を優しく握る。

微かに俺の手を握ろうとする仕草が愛おしい。


嗚呼、那智が愛おしい。

手放したくない、離れたくない、取られたくない、大切な俺の片割れ。


そう思うけどやっぱそれは限りない家族愛のものなんじゃないかって思う。恋人としての情愛じゃない。

やっぱり那智には家族愛が根強いから、俺はこいつを一人の人間としてじゃなく…、弟としてスキンシップを取る。

普通の兄弟同士じゃ抱擁なんざしない、手を繋がない、キスもしない。


だけど俺等は両親から貰えなかった愛情に渇望している。


誰からも貰えないその愛情を、俺等は兄弟同士で補っている。
他人から見りゃとんだお笑い種かもしれねぇな。


けど俺等は大真面目に、愛情を補い合っている。今も昔もこれからも。


俺はいつか、家族として、一兄弟として、弟を抱く日が来るんだと思う。

それは決して性欲からじゃなく、恋情からでもなく、餓え始めた愛情を補う行為として。


本当は他者から貰えるその愛情を、他者と共存するその世界を、俺等は自ら断ち切って世界に閉じこもってしまった。


ふたりぼっちの世界で生きると決めた俺等。

愛情が餓え始めた時、それを満たす事ができるのは片割れだけ。


お互いに絶対的存在ができる一方、お互いで不足する愛情を補わないといけねぇ。




そりゃ幸なのか不幸なのか…、俺は前者なんだと思う。




裏切らない存在がいる。


いつまでも俺だけを愛してくれる存在がいる。




しあわせ、





なんだとおもう。