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「にぃ……まぁ……」
泣き叫び疲れた那智が、細くか弱い声で俺を呼ぶ。
しっかりと俺のTシャツを、皴が寄るまで握り締めてくる最愛人に俺は胸が裂けるような念を抱いた。
ゆっくりと那智の体を抱えながら、真新しい敷布団に寝転ぶと、これまた真新しい毛布を胸上まで引き上げて温もりを共有。
毛布を媒介に、寄り添う那智と温もりが一つに溶け合うような気がした。
「那智」
泣き腫らした柔らかい瞼にそっと触れる。
微動する瞼。
俺は顔を近付けて、瞼に唇を落とした。
ついで舌を這わす。
生暖かい舌に那智は「ン」声を漏らした。
けど起きる気配はない。
調子乗って舌を這わす。
瞼からゆっくりと目尻、涙のあとを伝うように頬、顎、んで唇。
全体的な味評価はしょっぱい、だった。
「那智は俺と違って感情処理できる時間がなかったからな」
緑の黒髪を梳いて、その髪に、小さな頭にキスをする。
我慢に我慢を重ねた結果、気持ちが爆ぜちまったんだろうな。
記録的豪雨、記録的落涙、記録的シャウトだった。
ま、そうやって感情処理させることで、俺は那智に今までの事件やその時の気持ち等を忘れさせてやる選択肢を取った。
那智が俺にだけ、気持ちを向けて、見てくれるように、さ。
狡いのは百も承知だ。
だけど、俺にはもう那智しかいないから。
今までも、これからも、那智しかいないから。
那智に別世界を目に入れて欲しくないんだ。
ふたりぼっち世界が時に辛い世界に顔色を変えても、那智はこの世界に浸っていて欲しい。
幸せだって思っていて欲しい。
じゃないと、
俺のしたことは間違いになるじゃねぇか。
正誤問題として取り上げられた時、那智には『正』を選んで欲しいから。
泣くだけ泣いて、
沢山感情を処理して、
気持ち切り替えて、
ンでまた、兄さまの傍であどけなく笑ってくれ。