「―…馬鹿だな」




兄さまはおれの様子に失笑。


「よいしょ」


おれを抱えると上体を起こして、背中を叩いてくれる。


「那智…、これで仕舞いだ。
随分無理させたな。

ごめん、ごめんな那智。

今日は我慢するな。
神さまが許さなくても兄さまが許してやる。泣け」


兄さまがいいよ、と合図を送ってくれた。
今日で今までの事件も出来事も終わり、明日のために泣け。


おれの気持ちを見透かす兄さまは、おれを優しく抱き締めて囁く。



嗚呼、誘(いざな)う兄さまの声が引き金。



プッツンと張り詰めていた糸が切れて、おれは馬鹿みたいに兄さまの名前を呼びながら声を張った。


生きている中で一番じゃないかってほど、声を張って、兄さまの名前を呼んで、泣きじゃくった。


起こった現実から逃げるように。


罪悪を感じない、そう自分に言い聞かせていた。


これからもそう、自分の犯した罪悪を感じないようにおれは生きていく。


罪悪感という感情を本当に呼び覚ましたら、おれはおれでなくなるから。