「どうした、那智。泣きそうだぞ?」



ぽんぽんっと兄さまがおれの頭を撫でながら、顔を覗き込んでくる。

「那智?」優しいテノールがおれの名前を呼ぶ。

するとどうなったか…、おれの涙腺が緩み始めた。
まるで蛇口を少しずつ捻っていくように、おれの涙腺も少しずつ緩み始める。


あれ、おかしいな。

復讐も達成して一件落着、めでたしめでたし。


これから兄さまと新しい生活を送るでしょう。ハッピーエンド。おしまい。


なのに、どうしておれ、泣く必要が。



これは、嬉し涙なんだろうか?



折角、兄さまとふたりっきりで過ごせる夜なのに、ムードぶち壊しだ。

じゃれ合って楽しい時間を過ごしていたのに。

兄さまといっぱいスキンシップして楽しんでた筈なのに。



あとはアッタカイ気持ちでおやすみなさい、だった筈なのに。



我慢した。
泣きたい気持ちを必死に我慢した。



だって、

今のおれには泣く資格さえ与えられない気がしたんだ。



「うぁあ…」



それでも泣き声が漏れる、必死に我慢しても漏れる嗚咽。


噛み締めても閉じている上唇と下唇の間から、微かに息と涙声が漏れた。