久しぶりの敷布団からは真新しい新品の香り。


おれ的にあんまり好きじゃない。化学繊維の匂いがするから…、気分的に。


それよりもお日さまで干した匂いの方が好きだな。


ふわふわのふかふかだし日差しのぬくもりが残ってるし、柔らかい感じがする。


一番好きな匂いは兄さまなんだけどさ。

今の兄さまからは石けんの良い香り、それから兄さま自身の優しい香りがする。心がホッとする匂いだ。

明るくおれ等を照らす電気はそのままに、おれは兄さまに擦り寄る。


久々に兄さまとふたりっきりで過ごす夜。

それまで色んなことがあった、有りすぎた、思い出すのも億劫だと思うくらい。
記憶の許容範囲をオーバーしてしまうくらい、沢山の出来事が三ヶ月内で起こった。


はじまりは、おれが通り魔に襲われたことから。

 
それからとんとん拍子に事件事件じけん。


兄さまにおれの全部をあげたり、兄さまとお揃いのピアスをしたり、初めて兄さまと喧嘩をしたり(というかおれが怒らせちゃっただけなんだけど)。


三ヶ月内で兄さまの存在の大きさを知った。


他人に対して無頓着…というわけじゃないけど、結局兄さまと他人を天秤に掛けたとき、兄さまが圧倒的に大切だった。


確かに他人と会話して、初めて、楽しいって思ったけど。


(宮野徹平くんと、また話したいとは思うけれど…)


初めておれに気さくに話しかけてくれた、保健室でできたお友達。

最初で最後のおれの話し相手。



『那智くらいなんだって、俺のクダラナイ話をあそこまで純粋に笑ってくれるの。
いつでも待ってるから。またな』



もう、“また”はない。

二度と会うことのない徹平くんに、おれは何故か泣きたくなった。
どうしてだろう…、兄さまが一番なのに。


もう一度だけ、もういちどだけ、徹平くんの話、聞いてみたかった。