適当に偽名を使って親父に繋げるよう頼んだ俺は、暫く待った後、出てきた会社員にまず愛想よく挨拶。声はいつもより高め。
隣で鳥井が「演技派!」笑声を漏らしてたけど、無視して相手に敬語を使う。
『どなた様でしょうか』
あからさま警戒心を抱いた声音。
俺は声を戻してスーッと目を細めながら、軽く笑みを浮かべた。
「親父殿、アンタの大切なもの、こっちで頂いたからな」
『―…その声は治樹っ、大切なものっ、なん…』
「アンタも馬鹿だよな。俺等を放っておけば、何も失わずに済んだのに…、残念だ」
せいぜい地獄を見るんだな。
そう言って俺は電話を切った。今頃、親父は酷く狼狽しているに違いない。
これでいい。
俺等の、親父へ復讐は完全終了だ。
携帯を運転手に投げて返す。
片手でキャッチした鳥井は、まだ笑声を漏らしていた。
「酷いねぇ…、大概若旦那も鬼だろ。
自分は何もしないで、溺愛している娘に真実を告げる。
それによって娘は親父の素性を明かそうと動き、最後に信頼信用愛情すべてをおじゃんさせる。怖いねぇ。
ある意味、そいつにとっては地獄よりも地獄だろ」
「それが狙いだ。
地獄を見させねぇで復讐とは言わねぇ。
福島は高村から真実を知るんだろうな。
高村には『真実を告げたら彼女にしてやる』って言ってるし…、まあ迎えにも行かないが」
「鬼だ! 若旦那、めっさ鬼畜!」
「言ってろ」
鼻を鳴らす俺は弁当の唐揚げを口に放り込む。
冷たい唐揚げはあんま美味くねぇな。ほんと美味くねぇ。しょっぺぇし。
機械で作った味がする。
無愛想な味がする。
あったくねぇ。