「てめぇの親父から生活費と学費を免除してもらっていた。
ま、あいつがそこまで追い詰められてるなんざ知らなかったが」


「フザけないで!
あんたがっ、あんたが…っ、お父さんを追い詰めていたなんて!」


お父さんはねっ、どっかの誰かさんのせいである日を境に変わっちゃったのよ!


いつもニコニコと笑ってたのにっ、毎晩毎晩追い詰められたように頭を抱え込んでっ、不眠症になってっ、あたしもお母さんも気が気じゃなくて。



病院に連れてったほどなんだから!


お父さんがあたし達に隠れて国立K大学の学費を調べたり、資料を集めていたから、容易にそいつがその大学に通うって分かった。
だからいつか、その学生を地獄に突き落とすっ。

そう思っていた!


同じ大学に通ってっ、追い詰めている犯人を捕まえる。
心に誓ってたの。



それがまさか、目前の男だったなんて!


忌々しく治樹を睨んでいると、「兄さまを傷付ける?」こっくりと那智が首を右に傾げた。
だったら…、腰を浮かす弟を制し、治樹は意味深に朱美を見つめる。
 

「てめぇと俺等、もしかしたら立場は逆転してたかもしれねぇな」

「どういう意味よ! はぐらかさないで!」





「―――…てめぇは親父にとって愛されるべき子供だったってことだ。

正反対に俺等は親父にとって不要だった、そんだけの話」





初めて治樹は朱美に対して純な笑顔を向けた。
子供のように無邪気な笑みと共に、




「別れの挨拶は仕舞いだ」




那智、行くぞ、警戒心を募らせている弟を呼んで腰を上げる。