理由は一つ。
俺等の体に“そういう痕”があるからだ。
俺も中高時代は着替えに一苦労した覚えがある。
誰もいなくなってから着替えるか、トイレで着替えるか、を繰り返してた。
別段見られても良かったけど、同情や哀れみの眼を向けられるのがどうしても嫌だったんだ。
区別されてるようで胸糞悪いし。
で、同じ気持ちを抱いていた那智も皆がいなくなってから着替えようとしてたんだが、体育の教師に急かされて、無理やりその場で着替えさせられたらしい。
トイレで着替える間もなく、教師が急かしたもんだから…、
那智、痣や痕を着替えていた男子達に見られたっぽくって…。
小学校と中学校の大きな違いは、皆が思春期に入り始めるってこと。
まだまだ幼さは残すけど、入学した皆も思春期には入るわけで…、
那智も当然思春期に入るわけで…、
男子達に痣とか痕を執拗に聞かれたっぽい。
それが堪らなくヤになった上に、女子達にまでそれが広がって、何だか妙な目で見られるようになったとか。
こうして那智は教室に入ることを拒むようになり、保健室登校を繰り返して一年が経っている。
那智は俺と違って気が弱いからな…、視線に堪えられなくなったんだろ。
何度か俺、あいつの担任に呼び出された事があるけど、俺的に「それでもいいんじゃないですか?」って冷たく返した。
虐待うんぬんかんぬんも遠回し遠回し、質問されたけど、俺はシラを切った。
言ったところで助けてくれるわけじゃねえだろ。
放っといてくれってのが、俺の正直な気持ちだった。