ま、その女の余裕綽々の面を二日後には崩してやるんだけどな。
ニヒルチックに笑みを浮かべる俺に、八つも年上のヘタレ裏社会人はぽりぽり人差し指で頭部を掻いた後、
「んじゃ弟くんに宜しく」
ソファーから腰を上げる。
「取り敢えず俺は行動してくっから。
で、一応念押しで聞くが本当にいいのか?
たった一年でも思い出の家だろ? こっちが好き勝手しても」
鳥井の疑問に頷いて、俺もソファーから腰を上げた。
「ああ、那智も分かってくれるだろうしな。部屋は自由にしてくれ。
そっちに関しちゃてめぇの方がプロだろ」
「もう戻れねぇぞ? ただの大学生さんにはよ」
「最初から歪んでるさ。俺は」
「―…そうか。
そいじゃ、また夜中にこっち来るから。連絡する」
「鳥井、ヘマしたら殺すからな」
「あ゛ー脅すなって。これでも、おりゃまだ新人さんなんだからよぉ」
ブツクサ文句垂れるヘタレ裏社会人の背中を一蹴して、俺はホテルロビーから立ち去った。
向かうはエレベーター、否、那智の待つ601号室。
俺は鳥井の金をちょいと拝借して(「お前って鬼過ぎる!」鳥井には嘆かれた)、ホテルの部屋を借りている。
ホテルのカードキーで部屋の鍵を解除した俺は、「那智」弟の名を呼びながら部屋の中に入った。
「そろそろメシ食いに…、那智?」
ダブルベッドの上で寝ていた筈の那智がいない。
確か俺が部屋を出たのが朝の12時半ちょい過ぎだった筈。
んで戻ってきたのが1時…今は5分過ぎたところ。
鳥井と30分話し合ったことになるけど、その間に那智が起きて部屋を抜け出したってのは考え難い。
昨日の一件で、那智は泥沼のように眠っていたんだから。
下手すりゃ夕暮れ過ぎになっても起きないだろうって程、那智はよく眠っていた。
大丈夫だろうって高を括って、部屋を出て行ったが…、一体全体何処に行ったんだ、那智。
風呂場や便所を覗いて見てもいなくって、焦った俺はもう一度部屋を見渡す。