× × ×
 

俺の朝は那智が作った朝食を食べることから始まる。

眠たい目をそのままに、ボッサボサの髪もそのままに、寝巻きのまま那智の作った飯を食う。


それが俺の日常の始まり。


欠伸を噛み締めながら俺は丸テーブルの上に用意されているマグカップに手を伸ばす。

あ、今日はミルクティーか。

中身を味わいながら畳まれた新聞に目を通す。

今日も日本の景気は宜しくないようだ。


赤字やら倒産やら破綻やらがチラホラ目につく。

俺もあと二年したら大学を卒業する身の上。
就職先がないと困るんだけどな。

学費負担はともかく、生活負担はあと二年で終わらせてぇし。
 

「兄さま、目玉焼きは一つ? 二つ?」

 
狭い台所に立っている那智がフライパンを持ったまま振り返ってくる。

「ふたつ」

欠伸を零しながら返事を返す。
那智はそんな俺に笑いながら、了解だとばかりに卵を割り始めた。


二人分の朝食を運んでくる那智は時計を見て、


「時間大丈夫ですか?」


俺に箸を渡しながら質問。


一時限目は出席いらない授業だ。別に出なくてもいい。

俺は簡単に返事を返して、箸を受け取った。
 

  
「那智はどうする? 今日も図書館の方に行くか? なら送ってやるぞ」
 

「うーん…。
でも、あんまり行かないと…担任が…、親の方に連絡するかも…しれませんし」

 
那智はしかめっ面でトーストに噛り付いた。


俺達が家を出て一年。

俺は大学二年に、那智は中学二年になったわけだが、那智は中学にあまり馴染めてねぇみたいで保健室登校を繰り返している。


というのも、那智が保健室登校になっちまったのは、中学入学してちょっと経った頃。


入学して直ぐに健康診断があるらしいんだが、その時、那智はどうしても制服から体操服に着替える事が出来なかったらしい。