俺は肉を切ろうと躍起になっている那智の手からナイフとをフォークを取って、綺麗に肉を切り分けてやる。

内、一つをフォークで刺して那智に渡した。

那智は嬉しそうにそれを受け取って、頬張り始める。


鳥井は整った眉を顰め、煙草を取り出した。

喫煙席だから問題は無いだろう。

煙草を取り出しながら、

「妙だな」

トントンっと箱を叩いて煙草を銜えるとライターで先端を焼いて一服。思案に耽り始める。


「大抵、依頼をする際、二重依頼はお断りさせて貰ってるのが我が“チェリーボーイ”のモットーなんだがな。
おっと、これは我が社の名前な」

「……。なんだそのアダルティな名前」

「アダルト会社風に見立ててるんだよ。表向きアダルト会社な。
一応玩具も売ってるんで、いるなら買ってくれ。安く売っちゃるべ」


呆れる俺に、ステーキ肉を頬張っていた那智が「おもちゃ?」興味を示してくる。
子供な那智は今まで触れられなかった分、玩具に興味がある。

だからどんなのが置いてあるのか気になったんだろうけど…、那智、玩具の意味が違うからな。


話は元に戻して、鳥井は妙だと繰り返し紫煙を吐き出した。


「例えばだ。
俺がヘマする可能性があるからってことで、同社内の他の奴にも依頼を頼んでおくってなら話は分かる。
事前に俺にも連絡が入るだろうし、取り分の分配も社内で決めてくれる」


けどな同職を携わってる別会社にも二重で依頼するってなると話は別だ。

同じ人間を二会社が狙うことになる。


じゃあ始末した際、どっちに金を渡すんだって話になる。

雇い主自身も現場にいるわけじゃないから、どっちかにしか金を渡せない場合、どっちかは損をすることになる。

片や正直に始末したって言うだろうけど、片や偽って始末したって主張をするだろう。


折半? とんでもねぇ。

片方は仕事をこなしてねぇんだから、仕事をこなした片方は拒絶すること間違いなし。


つまり―…。



「揉め事が起きて、最悪潰し合いになる…てか?」


「ご名答。さすが若旦那」



鳥井はニッと口角をつり上げて、小汚い灰皿に灰を落とす。