脅しをかけると、「なんっつー雇い主だ」鳥井は降参の意を含む両手を上げてみせた。

喧嘩をする気も命を捨てる気もサラサラ無いらしい。

鳥井は俺に一応忠義を尽くしてはくれるようだ。


確かに鳥井ってタイマンに関しちゃ、そんなに腕っ節はないだろうな。


元々はただのリーマンだ。

俺の八つ上だろうが、喧嘩の経験がまるで無い鳥井を捻じ伏せることは、喧嘩経験豊富な俺にとって造作も無いこと。


入りたての裏社会人は穏便に事を進めようと俺に言い、ウキウキとメニュー表を見ている那智に声を掛ける。

ビクゥウっと驚く那智は必要以上に鳥井に警戒心を見せた。


そりゃそうだろ、那智にとって鳥井は襲われた相手なんだから。


俺に擦り寄ってくる那智は「ゃ…」小さな声で拒絶を漏らす。

「いや謝るだけだって」

鳥井は人柄良さそうに苦笑いするけど、

「ぅぅ…ぉ…ぃ…ゅ…ょ…」

ものっそい小さな声でブツブツブツブツ。


「は?」何言ってるんだと目を点にする鳥井に対し、聞き取ることに成功した俺は、思わず那智を凝視。

弟は小さくなってメニュー表で顔を隠す。

「おいおい那智、そりゃねえ。ぜってぇねえから。ぜってぇのぜってぇねぇから。
心配してくれるのは嬉しいけど、兄さま、ぜってぇそれはねぇから」
 
「なんて? 弟くん」


俺は複雑な気持ちで鳥井に言う。


「てめぇが俺に対してセックス仕掛けてくるんじゃないかって警戒してるみてぇ」

「……。俺が若旦那を襲うってか?」

「そう、てめぇが俺を」


「………」

「………」


俺達は揃って微妙な気分に支配される。

俺が鳥井に襲われてるシーンなんて想像も付かないんだけど。こいつ弱いし。

鳥井は頭痛がしてきたとこめかみに手を添えながら、


「そりゃまたなんで?」


理由を投げる。

間髪容れずに俺は説明してやった。