ヒュ~、前方から口笛が聞こえてきた。
 
 
「若旦那、弟主義だってのにこういう時は容赦ないなぁ」

「るせぇ、てめぇは黙って運転してろ。行き先はさっき言った場所だ。そこで飯を食う」


前部座席のシートを蹴る兄さまに、


「わーったよ。
あーあ、しかも俺に奢らせるつもりなんだろ?

はぁーあ…、ただでさえ借金があるってのに」


文句タラタラの鳥井さん。
何かおれ達に奢ってくれるみたいだ。正しくは奢らされるみたいだけど。



「で、那智」



兄さまが執拗に追い詰めてくる。

恐いを通り過ぎて、もう開き直りだ。

徹平くんのことはあるけど、それは兄さまに告げられないし…、おれは徹平くんのことを伏せて、「だってぇ…」唇を尖らせた。


「井坂先生…、兄さま…悪く言うから…、ムカついて…、ちょっと…。
ピアスのことで親を出そうとしますし」


あれ、段々腹が立ってきた。

おれは完全に開き直り、堰切ったように気持ちを吐き出す。


「大体、ピアスのことは大目に見てくれるって言ったのに…、生徒の公平がどうのこうので文句言ってきますし。
自己チュー主張だと思いますが、おれはこれを外す気もないですし。

大体なんで井坂先生が兄さまのことを知っているのか、なんで兄さまを悪く言うのかまったく分かりません。
理解もできません。意味不明。不可解極まりないです。世も末だと思った瞬間です。


兄さまを悪く言うってどういうことですか?

兄さまが頼りにならない?


スットコドッコイのベラボウチクショウです!


兄さまの何を知ってらっしゃるのか、井坂先生に説明して欲しいくらいです!

日本も世界も終わっています。終わりです。
地球なんて滅亡すればいいんです!

お腹が減りましたから、おれのお腹が脹れた後に地球が滅びればいいんです!

終わり、終わり、終わりです!
死亡です!
サヨナラあばよバイバイです!

あんな風に兄さまを悪く言うなんて、だったら二度と学校になんて行くものですか!」