「那智、てめぇ…、自分の立場分かってるのか?
兄さまの言いつけを破りやがって」
「ごめんなさい…」
「謝るなら事情を説明しろ。取り敢えず来い」
荒々しく頭を撫でられて、おれは兄さまに腕を引かれる。
痛いくらいに強く引かれる腕、撤回、凄く痛い…、腕が千切れそう。
大股で歩くものだから、おれは何度もこけそうになる。
足のコンパスが短いんだよな…、おれ。
そうこうしているうちに、轢かれそうになった車までやって来て、おれは後部座席に押し込まれた。
兄さまも後部座席に乗り込んでくるから、逃げられない。
不機嫌そうに車のドアを閉める兄さまは、運転席に出すよう命令。
「恐ぇな」って愚痴ったのは、あ、鳥井さん…、おれを襲ってきた人だ。
あんまり良い思い出はないけど、今はこっちの味方…だよね?
ダンマリに前方を見つめていたら、車がゆっくりと発進する。
そして訪れる気まずい空気。気圧すっごく重い。圧死しそうだ。
「うへぇ」
空気の重さに勘弁してくれって鳥井さんは言うけど、おれだって勘弁して欲しい、この空気。
原因はおれにあるけどさ。
「那智」
低い声で兄さまに呼ばれて、おれは身を小さくする。
恐い、兄さまがお怒りになられている。違う、怒ってるんじゃなくて、激怒してる。
激怒がおれの罪を思い出させる。
兄さまを裏切りそうになった、否、裏切った気持ちを抱いてしまった、その罪を。
苛む気持ちが生まれる。
「那智」
「ぁぅ…」
「あうじゃねえ」
「ぅぅ…」
「ううでもねぇ。兄さまは説明を求めてる」
「ぅー」
「うーじゃねえよ、言っている意味分かるな?」
「…ぃぃぇ」
なーんちゃって。
「いいえ? ほー、那智、てめぇ…とうとう反抗期か?」
ギロッと睨まれる。
嗚呼、冗談が通じなかったらしい。兄さまが恐い、恐いよ。
おれはこれ以上にないってほど身を小さくした。ほんとに圧死しそうだ。