靴箱までやって来て、一呼吸。
大きな後悔だけが心に残った。

なんであそこで怒鳴ってしまったんだろう…、親のことでどうこう言われても、これまで頭に血が上らなかったのに。

兄さまのことだって…、内心では腹を立てるけど怒声を張ることなんて…。



―――…。



折角、徹平くんと話せたのに、これでパァだよな。

でもこれで良かったのかもしれない。


今頃、徹平くんもおれの醜悪な部分を見て呆れているに違い「那智!」

おれはハッと我に返り、そっと後ろを振り返る。
そこには今まさに思い人の徹平くんがこっちに向かって追い駆けてくるところだった。

熱があるのにも拘らず追い駆けて来てくれた徹平くんは、おれの前に立つや否や「ほら忘れ物」おれに問題集とノートを差し出してくる。
机に置きっぱなしだったそれを、彼は届けに来てくれたんだ。


「なんかよく事情は分からないけど、那智、気にすることなくピアスしてりゃいいと思うぜ?
また、気が向いたら保健室来いよ。俺ちょいちょい顔出してみるから」

「…徹平くん…、でも…おれ」

「那智くらいなんだって、俺のクダラナイ話をあそこまで純粋に笑ってくれるの。
いつでも待ってるから。またな」


ニカッと笑い掛けてくれる徹平くんは、おれに問題集とノートを押し付けて肩に手を置くと、颯爽と保健室に戻って行く。

「教師たちは俺に任せとけ!」なんて親指立てる徹平くんの優しさに、ぽつんと取り残されたおれは佇むことしかできない。


またね…、だって。


それっておれがまた学校に来てくれるのを待ってる。
会えるのを楽しみにしてる。

また会おうってことの意味合いだよね。

おれ、もしかして徹平くんに必要とされてる?


『那智、俺等を理解できるのは俺等兄弟だけだ。
理解者は血を分け合った片割れだけ。

他人なんざ誰も俺等を理解できやしねぇ。

他人に優しさを向けられても、それはおざなり。忘れろ。

他人に笑顔を向けられても、それは建前。騙されるな。

他人に手を差し伸べられても、それは偽り。手を取るな。


他人なんざ必要としなくてもいい。

今まで生きていけただろ?
これからも必要としなくていい』