でも井坂先生っておれを“手間の掛かる生徒”だと見ている。

それは間違いない。

厄介者って言うのかな。


口には出さないけど、早く立ち直って教室に行けオーラがムンムン。

うーん、おれを心配しているというよりは、自分の社会的地位を心配してる。

最初こそ申し訳なさそうにしてたけど、今は開き直って自分のことを心配してる。

だから井坂先生は苦手なんだよな…。
いっちばん苦手…。
 

「ピアスのことで保護者の方には」


井坂先生の言葉に、


「お兄さんには三好先生が注意してくれましたから…、井坂先生、そのお話は」


大道先生がやんわり話を打ち切ろうとする。

「ですがお兄さんじゃ…」

話を続ける井坂先生は意味深に声を窄めた。

兄さまじゃ話にならないって言いたいのかもしれない。

兄さまはまだ大学生だから、なんて顔に大きく書いてある。おれに隠してるつもりだけど、顔に出てる。

「やはり親御さんでないと…、」

「い、井坂先生」

大道先生が血相変える一方で、おれは血の気が引いた。

親御さんってことは、お父さんやお母さんに話が持っていかれる?
二人と一緒に話し合わなきゃいけないの?


「お兄さんじゃ…、ねぇ。
頼りにならないと言いますか。事情はあると思いますが…、親御さんの方がいいんじゃ」


今度は頭に血が上った。
兄さまをあまり悪く言わないで欲しい。

兄さまはっ、兄さまはっ…、おれを精一杯守ってくれたんだ。
あいつ等は、あいつ等はっ…、おれ達を虫けらみたいに扱った挙句っ、今度は危害を加えようとっ。


気付けばおれは、

「あいつ等なんて親じゃない!」

声音を張っていた。



「それに兄はいつもおれを守ってくれましたっ、悪く言わないで下さい!」


シンと静まり返る保健室の中、おれはしまったと顔面蒼白。
 
パニクったおれはわけも分からず、チャックが開いたままの鞄を引っ掴んで保健室を飛び出した。

三好先生や井坂先生、大道先生に徹平くんの声が聞こえたけど、おれはがむしゃらに廊下を駆けた。