「こっそり食おうと思ったけど、那智にやるよ。
あ、大道先生、飴玉は一応校則違反でしょうけど寛大な心でスルーして下さーい」
ペロッと舌を出す徹平くんは、あどけない顔でおれに言う。
「また話を聞いてくれな」って。
不覚にも嬉しいって思う、愚かなおれがいた。
兄さまに対する罪悪感が胸に広がる。波紋のように次から次に広がる。
ガラ―ッ。
保健室の扉が開いた。
慌てて俺は扉の向こうに目を向ける。
兄さま!
……じゃなかった。
おれの大の苦手な体育教師の井坂先生がやって来たんだ。
やや中年太りしている井坂先生を目にしたおれは、また身を強張らせてしまう。
何でこの人、おれが学校に来る度に姿を現すんだろ。
そりゃおれが教室に行けなくなったのはこの人のせいなんだけどさ。
だからどうにかしたい気持ちもあるんだろうけど、でも放っていて欲しいのが本音だ。
「下川、今日は学校に来てるんだな」
どことなく棘のある物の言い方。
おれにはそう聞こえる…、向こうは普通に言ってるんだろうけど。
大道先生が井坂先生に会釈した。
向こうも会釈を返しておれに歩み寄って来る。
「はぁ…、下川、ピアスは駄目だって注意しただろ? あけたものは仕方が無いが、せめて保健室にいる時は外さないか?」
「井坂先生、大目に見ましょう。那智くんにとって大切な物みたいですから。そう話し合ったではないですか」
三好先生が庇ってくれるけど、
「他の生徒が真似したら」
保健室登校とはいえウチの生徒ですし、校風が乱れては困ります。
体育の教師らしい発言におれは居た堪れなくなる。
なんだか、お前の居場所は此処にはないって言われてるみたい。
被害妄想かもしれないけど。