何を思ったんだんだろう、おれ。

他人と一緒にいて楽しいだなんてっ…、兄さま、もう迎えに来てくれるのにっ…、危うく他人を取りそうになるなんて。

兄さまを裏切るところだった。
兄さまが来て下さるのに、他人とノウノウ食事だなんて…、駄目だ駄目っ、おれは兄さまのものなんだから。



―――…ああもう、嫌いだ、こんなおれっ、最低だっ。



おれは小さく首を横に振って帰る意思を表明した。


「えー、帰っちまうのか。那智。折角俺の話を笑ってくれる奴に会えたのに!」


徹平くんは残念そうに声を上げた。
おれは身を小さくして謝る。


「…ご…ごめん…、でも…お迎え…くるから」

「お兄さんが迎えに来るの?
じゃあ私から話してあげるけれど。
お兄さんも分かってくれるんじゃないかしら。折角喋れるお友達ができたんだから」


お友達…、徹平くんが…。

ううん、向こうはそう思ってないかもしれないし…、それにおれ、ろくにしゃべれないし…、ツマラナイ奴だし。

何より、おれは兄さましかイラナイ。

兄さまはおれをあんなに愛して下さってるし、守っても下さってる…、他人はおれ達を助けてくれなかったんだ。


おれは兄さましか望んじゃいけない。


どんなに言われても、おれは迎えが来るからって頑なに拒んだ。


「そうか」大道先生は残念そうに眉根をハの字に下げる。

「那智帰るのか」徹平くんも残念そうに肩を落としてくれる。


些か罪悪が湧いたけど、兄さまを蔑ろにできるわけないから。


「まあさ、那智、大抵保健室いるんだろ?
ちょいちょい顔を出しては俺のお話を聞かせてあげるから。これ、お近付きのしるし」


徹平くんがおれの右手首を掴むと、手の平に小さな個装。飴玉だった。


ポケットに入れっ放しだったのをおれにくれたのかな?

って思ったんだけど、徹平くんは今日家から持ってきたんだって綻んでくる。