「度胸あるじゃん。校則違反破ってピアスなんて。
意外と那智って不真面目なんだな。安心したぜ。
ガリ勉くんだったらどーしようかと思った。

勉強したいから話し掛けないでくれ! って言われるかと、内心ビクビクだったんだぜ? これでも」
 
 
「そ…なの?」

「俺って実は人見知りなんだって」

「ぅ…嘘だ…」


「いやホントホント。
こう見えてチキンハートだから、俺。

あ、体温計が鳴った。
どれどれ…、あ、七度五分か、体がだるいと思ったんだよな」


持参していた脱脂綿で体温計を拭いて、元に戻す宮野くんは「今日は部活休もう」気だるそうに息を吐く。
外貌どおり、宮野くんは体育系の部活をしていたみたいだ。

おれは勇気を持って宮野くんに聞いた。何の部活をしているのか、と。
宮野くんは気さくに笑う。


「ソフトテニス部。那智も入るか? 楽しいぞ」

「う…運動は嫌ぃ……だ…から…」
 

「いやいや案外やってみれば楽しいって。
あ、だけど気を付けろ。先輩ってのは厄介だぞ。

なんでか? パシリにされやすいからだ!

10分以内に缶珈琲を買って来いだの言ってくるんだぜ?
前に俺、好かん先輩にコーラ頼まれたから、思いっ切り振って渡してやったわけ。結果は」


「結果は…?」

「先輩はコーラまみれだ! ははっ、ざまぁ!
なーんて思ってたら、先輩に呼び出されてコテンパン。アウチ、やっちまったんだぜ! 俺、死亡! 嗚呼、なーむ。ちーん」


合掌してみせる宮野くんに呆気に取られたけど、思わず笑声を漏らした。

変な人だ宮野くんって。そして面白いや。
ノリツッコミが良いって言うのかな、とにもかくにも我慢できず笑っちゃった。

笑う俺に宮野くんも綻んで、「笑い事じゃなかったんだぜ?」自分に起きた身の上話を面白おかしく話してくれる。

まるで友達のように宮野くんが接してくれるものだから、緊張で引き攣っていた声も、自然と出るようになってきた。
 
おれのことを何一つ聞かないでいてくれるから安心したのかもしれない。