「お前が下川那智か。
あ、俺、2年3組の宮野 徹平(みやの てっぺい)。徹平でいいから。俺も勝手に那智って呼ぶし」

「さ…くみ……じゃあ…」


おれのクラスメートなんだ。

どうしよう、まさかクラスメートが隣に腰掛けてくるなんて。

嗚呼、どうしよう、恐い…、クラスメートだなんてっ。
クラスメートだなんてっ。

またおれのことで聞かれるんじゃ…。


「ふーん、那智、保健室で勉強してるのか。えらいな。俺だったらぜってぇ漫画読んでるのに」


宮野くんは机に乗っていた問題集を手に取って、器用に片手で捲る。

意外な事に、おれのことは何も聞かずにいてくれた。
それが妙に有り難かった。


「今、一次関数してるのか。俺等とやってるとこ一緒だ。けど、俺等よりも進んでる。塾でやってたり? もしかして独学?」

「ぁぅ…ぁ…その…教えてもらって…、兄さま…に…じゃない…、兄…に」


学校では極力兄さまの呼び名を“兄”にするよう心掛けている。

じゃないとネタにされちゃうから。
兄さまって呼び方に、何度、笑われたり指摘されたことか。

宮野くんもその類(たぐい)なんだって警戒してたんだけど、「お兄さんにねぇ」見事にスルーしてくれた。


不思議な人だった。


おれ自身のことを、攻撃的とも取れない直接的な質問を掛けてこないなんて。

細かいことは気にしない…、大雑把な人なのかもしれない。


そう思うと、不思議に彼に対する恐怖が少し、掻き消えた。


問題集をある程度見終わった宮野くんは、おれに目を向けてくる。

興味津々に観察してくる宮野くんに再度恐怖心が…、「ピアスみっけ!」おれの耳を指差して彼はニッと笑ってきた。