「平和ボケしてる日本にもケッタイな裏社会があるもんだ。
俺も半年前に知って度肝を抜いた。
ヤクザ社会とはまた違った裏社会ってのが本当に存在する」
ま、殺し(復讐)屋なんて堂々と看板掲げる馬鹿はいねぇから、名前を“何でも屋”や“便宜屋”等々に変えて仕事をこなす。
行き場を失ったゴミ共は、そうやって闇に息を潜んで金づるを求めるんだよ。
俺もそうだ。
金欲しさに息を潜めてる。
で、初めての依頼がお前等の母親だったってわけだが、相手が悪過ぎたな。
弟はともかく、こんなトチ狂った兄貴が相手じゃなぁ。
見事にデビュー失敗ってカンジ。
「挙句、俺より平然と他人を傷付けるとか…激相手が悪過ぎだ」
「そりゃオメデトウ。自覚してるが、俺はまともじゃねえ。普通じゃねえっつーか」
「相手してりゃ分かる。弟ラブっつーのもな。
俺も気持ちは分からんでもない。下に弟がいるしな。今は施設にいるけど」
「同情でも買おうってか?」
「これは共鳴ってヤツ。
取り敢えず、金がいることの目的を若旦那に話しておこうと思ってな。
借金返済も勿論だが、俺には弟がいる。半分だけ血の繋がった弟だ」
鳥井はラジオのスイッチを入れた。
『次のコーナーは―』軽快なDJの声が聞こえてくる。
「弟は22も下。父親が不倫して作ったガキで、邪魔だって理由でさっさと施設に捨てられちまった。
んで何度か会う機会があったんだが、それまで兄弟のいなかった俺にはどうもそいつが気に入っちまったらしい。
やけに懐いてくる異母兄弟は、施設で不自由な生活を強いられている。
このまま施設に残すのも不幸せ。
だからいつか引き取るって心に決めて、今、こうやって仕事に勤しんでる」
「それで人様の弟に手を掛けようとしたわけか」
冷ややかに物申せば、鳥井は失笑した。
「罪悪はあったさ」
頼んでも無いのに弁解を始める。