その言葉に、
「相変わらず弟主義なことで」
俺はお前等の世話係かよ、と鳥井は悪態をまた付く。
文句あるならこの場で目を抉ってやってもいいんだが、俺の盛大な独り言に「脅すなって」鳥井は表情を強張らせる。
本気で身の危機を感じたんだろう。
さっさと車を出し始めた。
車の流れに紛れ込みながら、那智の通う中学を目指す。
「んで、お坊ちゃん迎えに行った後はどーするんだ? 若旦那さまよ。
一丁前に髪なんか染めちまって」
「髪は母親に対する対策だ。
取り敢えず、てめぇの依頼内容を聞いて、どうするか考えてぇ。
んでもって、てめぇの処分をどうするか考える」
「おいマジかよ。俺、殺される予定?」
軽い世間話程度に俺達は会話を交わす。
内容は酷く物騒なものだけど。
「てめぇが裏切れば昇天もありうる」
「俺は前の雇い主より、今の雇い主の方が恐いっつーの。
せいぜい精一杯に忠義を尽くさせてもらいます」
「場合によっちゃ、まあ、母親から金分捕って、あんたにやってもいい」
「そりゃ有り難い。俺は金目的でこの仕事に嫌々入ったんだしな」
曰く、鳥井政志は三十路を向かえた独身男。元リーマンだったらしい。
だけど今日(こんにち)の不景気が祟って、鳥井は半年前にリストラを頂戴したとか。
しかも鳥井には借金があるらしく、返済金が無くなって路頭に迷っていたとか。
ちなみに借金は両親が作ったものらしく、あっ気なく両親が死んでしまったために手前が肩代わり。
借りたところが少しやばい系、言うなればヤーさんだったらしく、金作りのためにこの裏社会に入ったとか。
鳥井はこれでも新米の殺し(復讐)屋らしい。
まるで映画のような役名を聞いた気がするが、実際に存在していると鳥井は淡々と語る。