「そうだな。いなくなれば…、ずっと俺等、二人っきりの世界で生きられるな。
けどな那智、母さんはこの世から居なくなる前に地獄を見なきゃいけないんだ」


死んだ方がマシってくれぇの地獄を見せなきゃいけない、が正しいかもな。

脅しはしたけど、金もふんだくったけど、それ以上のことは一切しないつもりだったのに。関わる気なんて無かったのに。


あいつは俺等の平穏を崩すようなことをした。

つくづく救えない。


手前で産んだくせに、そのガキを自分の手を汚さず抹消しようとするなんてな。

社会的地位を守るために、世間体を守るために、何より自分自身を守るために、自分の手に負えなくなった息子達を消す。

それが俺等の母親。肉親。身内。反吐が出る。

もしかして、ファミレスの一件と母親、なんか関連が。

あの四人の中に母親繋がりの奴がいるのかもしれない。
真相はまだ霧がかってるけど。
 
 
「にーさまはずっとおれといっしょ」


すっかり気が落ち着いたのか、那智はウトウトと夢路を歩き出す。

「いっしょだ」

言葉を掛けて、もう寝ちまえと軽く腹を叩く。

うん、頷く那智だけど、まだ何か言い足りないのか。

欠伸を噛み締めながら、ポツリポツリと言葉を漏らし始めた。


「おれ、時々思うんです。
弟じゃなくて妹だったらなぁ…って。
そしたらにーさまの子供、孕めたんじゃないかって…。

恋愛ってゆーものも、ちゃんとできたんじゃないかって。
セックスもすんなりできたんじゃないかって。

別にセックスしたいわけじゃないんですよ?

ただ生理的欲求が満たされたんじゃないかって。
本能的とでも言うんでしょうか?

生物上…、一応欲求は存在しますから。
うーん、残念です…。
妹が良かったです」


何を言い出すかと思えば。
俺は微笑を零して、「弟で良かったんだよ」那智に言う。


「ガキができたらふたりぼっちじゃなくなるだろ? 異性兄弟はイイコトもあれば不都合もある。
俺達にとっちゃ、同性兄弟で都合が良かったんだよ。
ガキができたら、そいつに那智、取られちまうしな」


「むぅ。にーさま、取られるのはヤです」

「だろ? 兄さまもそうだ。ガキを殺しちまうかも」