「今まで俺等を散々な目に遭わせておいて、今更父親面してんじゃねえぞ? 胸糞悪い。
おい、あんたはどうなんだよ」


母親に向かって問い掛ける兄さま。
おれ達にとって、父親よりも母親の方が復讐対象になる。

だって…、虐げられ方が酷かったんだしさ。
おれのトラウマになってるくらいだから…、それは兄さまも同じだと思う。


今は強がってるけどさ。


虐げられた日々はトラウマ、おれも兄さまも一生の傷になる。そうに違いない。



母親から口答はなく、何度もおれ達の条件を呑むとばかりに首を縦に振るだけだった。


あんなに恐かった母親がこんなにも弱く見えるなんて…、


変な気分だとおれは思った。


兄さまは二人の承諾を目にした後、話は終わりだって打ち切った。


「条件は守れよ。守るなら俺等も何もしねぇから。
けどてめぇ等、もし何か行動に起こしてみやがれ。俺も黙っちゃねぇ。いいな?
那智、部屋に戻るぞ」


「あ、待って下さい。兄さま」


椅子から下りる兄さまは、さっさとリビングから出て行く。

おれも慌ててリビングから出て行った。
両親と残されるなんて真っ平ごめんだ。


けど兄さま、優しいから廊下でちゃんとおれを待ってくれていた。

勢い余ってぶつかるおれを、兄さまは目で笑う。


「バーカ。置いて行きやしねぇよ。ほら、手」


背の高い兄さまは、おれに大きな手を差し伸べてきてくれる。

おれは迷わずその手を握った。


すぐそこなのに、おれ達はいつも決まって手を繋ぐ。

どうして手を繋ぐかって聞かれたら困るけど、物心付いた時からこれが癖になってたから…、兄さまは何があるにしてもおれと手を繋いでくれる。


そんな兄さまが、おれは大好きだった。