全部俺が…、したのかよ…。
絶句する俺は完全に心が凍った。
俺が居間を荒らした。
居間がこんな有様なんだ。
手を上げちまった那智は、もっと。もっと。もっと…。
あれだけ那智に他人を信用するなって言っておいて、離れるなって言っておいて、守るって言っておいて、手前が約束を破るなんてっ。
那智を傷付けちまった。
親と同じように手を上げちまった。
その現実が俺を自己嫌悪させる。
「な…なち…、那智。なち…」
居間にいる筈の那智がいない。呼んでも声が聞こえてこない。
震えが襲ってくる。
どうしよう、俺は取り返しのつかないことを…、まさか那智、出て行ったんじゃ。
あんなに嬲ったんだ。
那智、俺を見切っ「あ、兄さま。あがってきました?」、ビクリ、俺の体が異常に飛び上がる。
恐る恐る振り向けば、いつもの笑みを浮かべてくる那智本人。
トイレに入っていたようだ。
俺の背後からひょっこりと顔を出してくる。
「待ってたんですよ。もうおれ、お腹がぺこぺこで。兄さまが上がってきたらご飯食べようと思ってたところなんです!」
いつもの調子で話し掛けてくれる弟。
台所に向かう那智は、台に置いていた俺の手土産が入っている紙袋を持って移動。
テーブルの上に、俺の手土産であるハンバーガーやらポテトやらジュースを広げ始める。
「うーん、兄さま。ハンバーガー冷えちゃいましたよ。そろそろレンジでも買いません? そしたら、いつでも温められますし」
あ…、那智の頬が腫れてる。
「でもレンジ、置く場所ないんですよね。トースターが場所取ってますから」
あれ…、俺が…、手を上げたから。
「だけどやっぱりレンジくらい欲しいですよね。兄さま」
あどけない顔で笑う那智に、俺は胸が締め付けられた。
今になってまざまざと思い出す。
さっき那智に手を上げちまった光景を。
あの時の俺は容赦なく、手加減なしに、那智をぶっ叩いた。
何度も俺の名前を呼んでくれる那智を傷付けた。
―…心配(必要)してくれる那智の手を払っちまった。