下唇を噛み締めて地団太を踏んだ後、俺は最高潮に苛立ちを抱えながら家に帰宅した。

扉を開けると、待ち侘びていたとばかりに那智が笑顔で出迎えてくれる。

嬉しい筈なのに、今の俺は色んな感情に支配されていて、那智の笑顔に応えることが出来なかった。

苛立ちを募らせながら、手土産を押し付けて、部屋に上がる。


「兄さま?」どうしたのだと首を傾げる那智は、俺に優しく声を掛けてくれる。


それがますます苛立ちを生む。


頼むから今は放っておいてくれ、那智。

あんま俺に話し掛けると…、話し掛けると…。


無視して荷物を机に置く俺に、那智は積極的に話し掛けてきた。


「兄さま…何かありました?」


那智が俺の服の裾を掴んでくる。



バシン―、



瞬間的に俺はその手を容赦なく叩き落とした。

驚きかえっている那智に、俺は怒声を張る。


「るせぇよ! 黙ってろ!」


怒声を張れば張るほど、苛立ちが、親父の言葉が、俺自身の胸の痛みが、脳裏に蘇る。
 
だから止まらなかった。

瞠目している那智に辛辣な態度を取ってしまう。


「兄さま、本当にどうしたんです?」


俺の態度に怒ることなく、寧ろ心配してくれる那智に苛立ちを覚えて仕方が無い。

声を掛けられれば掛けられるほど「煩い」、そう突っ返し、手を伸ばされれば容赦なく手を振り払って、挙句の果てには黙るよう手を上げた。


もう感情が抑えられなくて、自分の思うが侭に感情を行動に起こした。


痛いという声は聞こえなかったけど、何度も「兄さま」と呼ぶ声が聞こえた。



血が上ってるから分からない。



でも微かに那智の呼ぶ声が、俺の耳に届いたような気がした。



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