「此処でいい。もう目と鼻の先だから」
俺は親父にそう告げてシートベルトを外した。
アパート近くで車は停車する。
俺は手土産と鞄を持って外へと出た。夜の涼しげな風が俺を出迎えてくれる。
明日も晴れそうだな。
欄干の空を見上げていると、「約束は守るから」後ろから声を掛けられた。
振り返る俺は「三ヶ月以上はねぇぞ」しっかりと親父に釘を刺す。
どすの利いた声を出す俺に怖じることなく、親父は軽く頷いて助手席のドアを閉めた。
その際、親父は俺を見つめて苦笑い。
「那智としっかりな」
なんでこういう時だけ父親面するんだ。
“今更”じゃねえか。
「俺等と向こうの家族、どっちも裏切っておいてよく言うぜ」
ガンを飛ばす俺に、親父は意味深に呟いた。
「ああ、ほんとにな。
今更になってお前等に、少し、気に掛けている…最低な父親がいる。
お前等を…、あの時助けてやれば良かったんだ。
最初からお前等を愛してやれば良かった。
ほんとに、向こうの父親になる資格さえないのかもしれない」
―――…。
走り去った車を見送った俺は、ただただ佇んでいた。
呆然と佇んでいた。
その内、乾いた笑いが零れた。
何、親父なんぞの言葉に感情を寄せてるんだよ、俺。
親父だって結局は他人じゃねえか。
あいつ、助けてくれなかったんだぞ。俺等に見向きもしなかったんだぞ。
愛してくれる素振りさえ見せなかった、その月日は計り知れなかったのに。
なんでこんなに胸が痛いんだよ。
馬鹿じゃねえか、俺。
苛々するっ、こんな自分にメチャクチャ苛々する。
感情の整理も処理もつかないっ、苛々する。