「保健室登校だったそうじゃないか。
それが此処最近、まったく顔を見せなくなったと学校側が連絡してきてるが…、」


保健室登校でもいいから登校させろ。学校に顔を見せろ。連絡が来るから。

せめて休むなら休むなりに、学校に小まめに電話しろ。連絡が来てしまうから。

命令口調になる親父に俺は鼻で笑う。


「那智の心配じゃなくて手前の心配か。
学校側の連絡に怯えてるんだろ?

不味いもんな。
別の家族がいるあんたが、まさかもう一つ家族を作って…、しかも虐待を見てみぬ振りをしてきた。

世間体にでも知られりゃ、あんたは社会的な地位も別の家族の信頼も失う」


チラッと親父を一瞥。
表情をなくす中年男がそこにはいた。


めんっどくせぇな。

そんなことを言うためにわざわざ俺を待ってたのかよ。


「大体誰のせいで那智が学校に行き辛くなってると思ってんだ。
元の原因は虐待の痕をクラスメートに見られたことだぞ。

どっかの御両親のおかげさまで、那智も俺も苦労してる」


「治樹、頼むから向こうの家族にばれるようなことは」



チッ、俺は舌を鳴らして足を組んだ。

俺等の心配は一切無いくせに、向こうの家族の心配と手前の心配はする。
 


「あんた、人間として最低だな。
俺等を何だって思ってやがる。
ついついデキちまった子供を“動物”だとでも思ってたのか?

ッハ…、人間とさえ見られてねぇなんてな。



俺等はあんたみてぇな親を持って不幸せだったよ」




もう話すことなんて無い。

俺はロックが掛かってるドアを解除して、ドアを押し開ける。


「待て!」


親父に腕を掴まれた。

俺は振り返って訝しげに眉根を寄せる。