【自室から廊下にて】
(PM08:29)


叩く音、那智と母親の声が聞こえなくなる。
 
散々喚いた俺は喉がヒリヒリ痛んでいた。
息をする度に痛みが襲う。

押しても引いても暴れても開かない自室の扉が開いたのは、声と音が聞こえなくなって数分後のこと。

母親が顔を出したと思ったら、俺の腕を掴んで廊下に引きずり出す。
 

俺は内心ビビリながら、「那智は?」おずおずと質問した。


どこかスッキリした顔を作る母親は、どこ吹く風で俺の質問をスルー。

きっと執拗に殴り続けて、あいつ、気絶しちまったんだ。



「ガキのせいで、恋人にフラれた」



母親は素っ気無く俺に言う。

どうやら昨日連込んだ恋人は、母親を独身だと思っていたらしく、俺等子供がいたと気付くや否やフったらしい。


母親は毎度べつの恋人を連込む。

恋人と一緒に俺等を虐げることもあるし、逆に俺等の存在を隠そうと部屋に閉じ込める事がある。



今回は後者だった。



那智が部屋を出たせいで恋人にフラれた。

だから、あんなに執拗に那智を叩き続けたんだ。