「か、母さん! なんで那智を叩くんだよ!」
俺は急いで母親に駆け寄るけど、「あんたは黙ってろ」ギロッと睨んできた。
俺だってまだ12、親に睨まれたらビビッちまう。体が思わず竦んじまう。
でも那智がっ、那智が!
「あんた、昨日部屋から出ただろうが! あれほど中にいろ言ったのにっ、言い付けを破りやがってガキが!」
「ご…ごめんなさいっ…アイタっ…痛いよぉ、お母さん」
髪を鷲掴みにされた那智が痛みに呻いてる。
グズグズに泣いている那智に、母親はまた一発かましやがった。
「那智!」
俺は床に倒れた那智を抱き起こす。
涙を止めようとしている那智を、母親は執拗に叩き続けようとする。
だから俺は懇願した。
那智を許して欲しい、昨日のことは面倒見なかった俺が悪いからって。
今度からちゃんと面倒見るし、言い付けも守る。
「許して下さい。お願いします」
何度も謝り倒す俺にも、母親は容赦ない。
俺の腕を掴んだと思ったら、廊下に連れ出されて自室に放り込まれる。
尻餅つく俺を余所に、母親は部屋を閉めた。
急いで部屋を開けようとするんだけど、外側から椅子をつっかえ棒代わりにしてるらしくドアノブが回らない。
向こうからは那智の泣き声と、母親のヒステリックに満ちた声、そして大きな物音たち。
「那智ッ、那智っー! 開けてっ、開けてくれよ、母さん!」
俺は何度も扉を叩いた。
情けないことに、声は勿論、俺の目には涙が滲んでいた。