顔を殴られたのははじめてで、かばんを落として片手で叩かれた頬をおさえた

左手で胸倉をつかまれてすごい力で引き寄せられた勢いでシャツのどこかのボタンが取れたのがわかったけれど、次の瞬間もう一度同じように平手打ちされて衝撃で床に座り込んだ

別れを切り出したから?
でも、それでも前は顔は殴らなかったのに


容赦なく背中を蹴られて、座ったまま上半身を床に伏せると首根っこを引き上げられて背後から耳元を叩かれた

キーンと耳鳴りがするほどの痛み

痛みと恐怖で涙が出る

早く終われ!!!

そう願うことしかできなくて、ただ両手で頭と顔をかばっていると、わき腹を蹴られた

うまく息を吸えなくて咳がとまらなくなった

涙と咳で頭が思考回路をシャットダウンする


「お前に俺を拒絶する権利ねえよ」


まことはそう言うと、最後にアタシの後頭部を小突くように叩いて足音荒く出て行った

待って、の言葉は咳が邪魔して出てこなかった

今日のこの勇気は何度も出ない

一度言ってしまった今、決着をつけたかった

なのに、アタシの言葉も聞かずに・・・・・・



聞いてよ・・・!!!



床に座り込んで額を床におしつけるように倒したまま動けなかった

重い扉が閉まると部屋全体に振動が伝わる

涙が止まらなくて

痛くて

目をとじると

叩かれた耳がキーーーーンとなって

何も聞こえなくなったんじゃないかと思うほど静けさを感じた