別れを切り出したのは、これで2回目

暴力をふるわれだして少しした頃にも一度切り出した事がある


その後、殺される!と本気で恐怖を感じて、二度と自分から別れは切り出すまいと決意した
幽霊につかまれた足に手形が残ったなんてホラー話はきいたことがあったけれど、実際に人につかまれて手形がつくんだってはじめてその時知った

外を歩けなくなるから、顔だけは殴らないまこと

その時顔以外のいたるところにアザができて、鏡で自分の体を見るのがイヤになるほどだったのに

アタシにまだ「別れ」を口にできる勇気があったことにも驚く


入れと目で促された先は


講堂の控え室

重い扉はきっと何一つ音を漏らさないに違いない


殺されるかも・・・・一瞬で頭が危険シグナルを発したけど、逃げる気力は失われてた

ただ躊躇するように立ち止まる


まことはアタシの後頭部を引き寄せるように乱暴につかんで控え室内に押し込まれた


高い位置にある明かり取りの窓しかなくて、少しだけ光が差し込む部屋は薄暗い

細長いテーブルが無造作に2~3台置かれていて、折りたたみのチェアが部屋のはしっこに重ねられている

小さな棚に書籍が折り重なるように倒れていて、きちんと立てかけたくなる

フローリング調の床材の上を歩くと靴のそこがキュッと鳴った

誰かが定期的に掃除をしているんだろうか、あまり人が出入りしそうではないこの部屋にほこりっぽさはほとんどなかった

ドアがしまりきる前に振り向かされるとまことが眉間にしわを寄せてアタシの唇を見た

「何そのピンク、似合ってねーし」

そう言うと遠慮なく顔に平手打ちがとんできた