「もし」

加賀見くんの優しい声が静かにアタシの耳まで届いてきた



「もし、誰かに見られたら困るからって理由なら、逃げなくてもいいよ」



真意が読めなくて、何度かまばたきをして戸惑った

行かなくちゃって気持ちはあるのに、彼の言葉がからみついて踏み出せない

加賀見くんが立ち上がるとアタシの腕を柔らかに引っ張った





「隠れればいいんだから」





そう言った瞬間アタシは彼にいざなわれて、図書館の奥の奥、扉を隔てた貸し出し禁止の本と古書ばかりがある一角へ入っていった

彼の後ろを歩いていると、人並みな感想だけれども、石鹸の匂いがする

もう少しその懐かしいような匂いに包まれていたいのに、古びた本の強烈な匂いがそれをかき消した