まだこんなに小さな子供が、人を殺すと叫び続けている。友達と箸が転んだだけでも笑いあえるだろうこの時期に…。城下町の子供達にこんな子はいない。
王は恐怖を感じた。戦の恐ろしさを痛感した。
戦うべきか。今まで通り何もせず、じっと様子を伺うのか。

王は何を思ったのか、少年を抱きしめていた。体が勝手にそうしていた。

「すまん。私が不甲斐ないばかりに…。必ず、必ずそなたの村を潰した奴らをつきとめ、話をつける。だから、もう…子供に戻ってくれ。人を殺すと簡単に言うな…。」
王は涙が込み上げてきた。抱きしめた体はあまりにも小さく、弱々しく、平和ぼけをしていた自分が許せなくなった。
「許せねえんだよ!子供だからってなめんなよ!俺はやれる!」
少年は、王の腕すら振りほどこうとする。
「うるさい!私の腕すら振りほどけないガキが何を言ってる!お前が殺そうと思ってる奴らはなー同時にお前を殺そうと思ってるんだ!今のお前など造作もないぞ!あっけなく殺されたいか!」
体を離し、今度は少年の腕を強くつかみ、少年の体を揺らし叱りつける。あまりの力と声にビックリしたのだろう、少年は叫ぶのを止め、驚いた顔で王を見つめた。
「…忘れなさいとは言わない。強くなりなさい。今なんかよりずっとずーっと強くなって、またここへ来たらいい。その時は…決して一人ではなく、一緒に戦おう。…名前は?」
「…オニキス。」

(あれから十年。オニキスはまだ、あの時の感情に捕われてここまできたのだろうか…。)
俺はあれから十年、一度も王には会っていない。強くなってから会いに行くと決めたからだ。敵討ちに行くのに、むざむざ殺されてたまるか。俺の中でまだ、恨みの炎は消えていない。激しく燃えるばかりだ。色んな出会いもあったし、大人にもなったとは思うけど、でも、奴らだけは俺の手で、死んでいった村の人達の生きた様を聞かせてから息の根を止めてやる。