国がでかいため、一応兵は置いてはいるが、他国に戦を仕掛けられる事など、今まで自分が王についてから一度もなかった事なのである。しかし、今回初めて、国の領土内の村が他国に襲われたのだ。なんとも言えない腹ただしさが王の中で、煮え切らないでいた。理由もわからない、この時はどこの国かもわからない。なんでもいいから情報が欲しかった。
目の前に現れたのは、以外にもまだ小さな少年だった。少年とは聞いていたが、あれだけ村が壊滅させられたのだから、十五歳くらいの大きさはあるだろうと思い込んでいた。頭に血が昇っている王は、これじゃ何も情報はないであろと正直余計にイライラした。
「…。」
ただ少年をじっと見つめた。用があるならさっさと言え。そんな態度であった。
目の前まで歩いてきた少年は、至る所に包帯をまかれ、うつむきながら肩をガクガク奮わせている。
あれだけの惨劇だ。怯えていて当たり前だろう。そう思っていた王は、次の瞬間、この少年に驚かされる事になる。
「あんたがここで一番偉いのか?」
ん?と王は耳を疑う。
「あんたが一番偉いのかって聞いてんだよ!」
ガクガクと体を奮わせていたのは、心の奥底からの怒りからきていたのだ。
「こいつ、王に向かってなんて事を!!」
先程の兵が、慌てて少年を引きずり出そうと、少年の服を掴む。
「離せ!誰なんだよ!俺の村にあんな事したのは誰なんだよ!!」
服を捕まえられた少年は、ジタバタと暴れ、王に叫ぶ。
「答えろよ!!俺はそいつらを殺しに行くんだ!!殺す!!殺してやるんだ!!」
凄まじい叫び声が謁見の間に響きわたる。
王はハッと我に返った。
この少年があそこで何を体験したのか…想像もつかないものではあるが、この狂乱する少年の心の痛みがひどく恐ろしく深いものであるのを、肌で感じた。
(壊れる。この子はここで壊れてしまう。)